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Front Interview
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第3話 第4話
Vol.017 独立行政法人中小企業基盤整備機構 理事 後藤芳一第4話 ベンチャーの彼岸
コラム(4) パーソナル・データ(4)
複線的な評価基準を作る
 いまの私の仕事はファンドへの出資です。現在、ベンチャー・キャピタル、金融機関、地方自治体などと協力して、ファンドの数は110本あります。また出資するだけでなく、ハンズオン支援、インキュベータ、創業・ベンチャー国民フォーラム、マッチングや販路開拓、再生や事業継続、産学官連携など、我々が行っている事業を通じて案件も発掘しています。個々の企業もキャピタルも、新しい分野や試みへの挑戦があり、それを見極める仕事です。いたずらに慎重にならず、市場、事業モデル、経営者のよい点をみます。同じものは2つとありませんし、個々の工夫や良さを見つけにいくところがクリエイティブと思います。  私たちのファンド事業には、一般のファンドに加えての要請もあります。たとえば、ベンチャー向けのファンドでは、今後のイノベーションを牽引する分野としてバイオも支えつづけますし、テクノロジー系では収益性が見通しにくい事業の初期段階に、コンテンツでは中小事業者の販路での地位を支えることで活力を活かす、また、東京に偏りがちなこの業界で地域の光る企業を世界につなげる、などの目配りが求められています。キャピタルについても、独立系のキャピタルがもっと輩出するよう、我々の制度を通じて後押しができればと考えています。我々の事業には、このような、政策的な要請があるわけです。  もちろん、収益性が確保されることは前提条件です。ただ、政策的な価値を上積みする分、単純に利回りといった成績だけでなく、経済や社会への寄与の面も表示できるような複線型の評価が必要であり、独自の指標を加えるなどこれからの課題と考えています。

投資判断フローチャート
私たちのファンド事業で試みていることとして、出資判断プロセスの標準化があります。出資の判断をするには、収益性の数字や事業のフレーム、運営する人と実施する組織などを総合的にみる必要があります。ただ、押さえるべき要素があまりに多いために、ふつうの発想では、個々の担当者が個別によく見極めてというやり方になります。これは、暗黙知や個人のスキルに頼るやり方ですね。 我々も、最近まではそうでした。一方、仕事の速さと質も必要です。加えて、我々の組織では、同じ者が5年も10年も連続で担当できません。また、担当者の暗黙知に任せる方法では、作業の手順自体にバラツキがでて、仕事の品質もベストというわけにいかなくなってしまいます。それと特に、暗黙知にたよる方法では、経験が個人のアタマにしまいこまれて、組織としてのPDCAが回りません。  そこで、判断プロセスをシステム化して、判断のフローを見える形にしました。その準備として、我々として何を見るべきか、何を見ているかを話し合いました。見る要素が多いといっても、すべてが同じ比重というわけではなく、いくつかの大きいステップになります。いろいろな事例から得られる知見は、判断フローにチェック点として追加して、手順自体を成長させていきます。総合判断の典型のような仕事ですので、そうしたシステム化はできないというのは簡単ですし、成果がでるかはまだこれからです。しかし、続けていくことでかならず形になると考えています。いずれ、業界とも共有できるようになれば、我々がめざす方向について業界とコミュニケーションを取る有効なツールになると考えています。

ベンチャー起業家の使命とは
 経済社会のグローバル化が進み、最近は、フラット化などともいいます。これは、インターネットによって、これまで難しいとされてきたサービス分野や高度な役務も、国際間でアウトソーシングできることになり、世界の競争環境が、急にフラットになりつつある、という指摘です。この結果、安い労働力と量が注目される中国に加えて、ITを活用する知的パワーとしてのインドの存在が大きくなっているわけです。  こうした流れのもとで、何を強みにしていくかは各国共通の課題です。日本には、加えて3つの事情があります。第1は、これまでの強みは積み上げ型のモノ作りです。それをどう活かしていくか。第2は、その裏返しですが、金融、通信、物流などの枠組を作る・押さえるのが弱い。フラット化の時代では、これまで以上にそれが成否を分けます。第3は、会社法や金取法に代表されるように、企業とその所有のあり方の転換点ということです。  では、これからの産業、その中でベンチャーに何が必要か。ベンチャーは、1歩先の価値に気づいてチャレンジする人たちです。世界標準で競う人たちが輩出することで、ダイナミックに産業構造を変えていきます。これからますます、欠くことができない存在です。


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