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VC vision
前編 後編
第10回 ベンチャーマインドの求心力 後編 ビジョン、ミッション、パッション
伊藤忠テクノロジーベンチャーズは、
親会社である伊藤忠商事の資金が中心のファンド運営を改め、
投資家からの出資を積極的に促す戦略に打って出ている。
IT分野で高い評価をもつ営業支援、経営支援の実績を生かし、
幅広い分野に拡大したファンド展開を視野に入れる伊藤忠テクノロジーベンチャーズは、
今後どんな投資スタイルを確立させようとしているのか。
interviewer:森本紀行(ベンチャー座アドバイザー、HCアセットマネジメント代表取締役社長)
投資先一覧パートナー
感性、感受性といった投資眼が必要

【森本】 案件への投資の最終判断は、担当者それぞれの裁量にまかされているのですか。
【安達】 投資判断は計数化してできるものではないですね。たとえば10項目のチェックリストがあって1項目5点の50点満点だとして、40点以上なら投資するとしたら、それは簡単なのですが、たぶん、それでは永遠にパフォーマンスを上げられないと思います。やはり、先ほどお話しした感性、感受性といった"投資眼"というものが必要です。最後の「こうだ!」という決定には、感覚的な部分が大きいものです。だから、リスクはあります。それでも、技術評価や市場調査において好材料が揃い、90%以上は決定だという段階まできても投資に至らなかった案件もあります。最後の一押しのところで、決断できないという場合もあるわけです。その代わり、逆に、いったん投資をしてパフォーマンスが上がらない企業に対しても、我々は全責任をもって支援していきます。これは契約にもとづくビジネスですから、当然なことでもあるわけです。
【森本】 IT関連事業にもさまざまなものがありますが、伊藤忠テクノロジーベンチャーズが投資する案件には、何か特徴はありますか。
【安達】 比較的バランスよく投資体制を構築していますので、ソフトウェア、ハードウェア、コンテンツ、半導体、ITサービスなど、幅広く対応しています。結果的に、サービス関連が多く半分くらいを占めています。
【森本】 ハンズオンで企業価値を高めるためにとられている方策はどのようなものがありますか。
【安達】 ベンチャー企業の多くは、お客様を把握できていない場合がよくあります。お客様との接点を持っていないため、いかに、アクセスポイントを増やしていくかが、戦略的にも重要になります。また、社内に人材がそろっていないことも弱点としてあります。そのためには、そのベンチャー企業にマッチしたパートナーを見つけていくことも必要です。
【森本】 御社の場合、コーポレートベンチャーキャピタルという位置づけにもなると思うのですが、伊藤忠グループのカラーが色濃く出ている点は組織構成の面で影響を及ぼすことがありますか。
【安達】 そうですね。今後、人材の多様化が課題となります。ですから、外部採用をすべきと考えていまして、2、3年先の中期目標としては、組織構成を外部採用と出向者で半々の比率にしていこうと考えています。将来的には、社長が外部出身の人間になることも充分に想定されます。
【森本】 採用人材の経歴はどういう点を重視していますか。
【安達】 ベンチャーキャピタルの経験者であるに越したことはないのですが、それ以上にITに興味を持って、ITビジネスの経験がある人を優先したいですね。ITに対する感覚的なものが備わっていることのニーズが高いですね。

総合的なファンド運営のできる体制へ

【森本】 今後のビジョンについてお聞かせください。
【安達】 これまで上場企業も実現してきていますし、事業も拡大させてきたと思います。こうしたIT事業のベンチャーキャピタルとして培ったノウハウを、今後は幅広い分野でさらに生かす方向が求められてくると思います。親会社は総合商社ですから多様な事業を展開しております。食料部門もあれば、バイオもあるし、サービスも多種あります。これらの業種のベンチャーに対しての投資環境を提供していくことは必要だろうと思っています。例えばバイオとITの融合分野などをつくっていきたいと思います。
【森本】 IT部門も拡大していくという方向もあるわけですよね。
【安達】 要するに、IT部門の事業を大きくするには、他業種のIT部門のフォローに対応するビジネスにも視野を広げていく必要が出てくると思います。ですから、総合的なファンド運営のできる体制へ発展させていくことは、重要な課題になってくるだろうと思います。3年後ぐらいには、「伊藤忠ベンチャーキャピタル」といったイメージに変わっていきたいですね。
【森本】 海外の展開はどのようにお考えですか。
【安達】 もともと伊藤忠商事の情報産業部門における投資ビジネスの軸足は海外、とくにシリコンバレーで展開してきております。そこをうまく活用していきたいと思っていますが、ただ、アメリカと日本では投資の運用方法は異なってくると思います。日本と同じようにハンズオンしようとしてもうまくできるわけではありません。そこで、信頼できるアメリカのベンチャーキャピタルを立てて、そのベンチャーキャピタルをリードしていくことも必要になるでしょう。アメリカで成功したビジネスは、必ず日本でも成功しますから、そういう先端の技術やサービスに先鞭をつけておく意味でも、海外投資は、非常に大事な分野になると思います。また、伊藤忠商事としても日本の新市場の開拓を支援する体制でいますから、伊藤忠グループにとってベンチャーキャピタルのポジションは、今後も一層高いものになっていくだろうと思います。

インタビューを終えて

伊藤忠商事は70年代初頭からシリコンバレーでITベンチャーの創業支援に関わってきたという。伊藤忠グループが、総合商社の中でいち早くベンチャーキャピタル事業をスタートできたのも、そうした先見的取り組みの歴史があったからだ。伊藤忠テクノロジーベンチャーズは、この伊藤忠商事の情報部門が独自に蓄積してきたノウハウを最大限に生かした点が特徴といえる。とくに、ITに特化したベンチャー支援の展開力は、他のベンチャーキャピタルの追随を許さない同社のアドバンテージになっている。また、同社が親会社から独立性を確立していることも、高い信用力をもたらすポイントだ。親会社の意向に左右されない立場で、投資先、投資家のメリットを最優先に事業を進めていることは、顧客にとって大きな安心材料だといっていいだろう。商社系ベンチャーキャピタルにありながら、独特の個性を発揮してやまない伊藤忠テクノロジーベンチャーズには、将来にわたり、大いなる可能性を感じることができる。(森本紀行)

次号第11話(1月10日発行)は、ITXの塩谷誠司さんが登場いたします。


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