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VC vision
前編 後編
第16回 ゴッド・セイブ・ザ・ベンチャー  後編 クロスボーダーな投資
ここ数年の日本のバイオベンチャーへの投資は低迷が続いている。
約2年超にわたり創薬ベンチャーのIPOは途絶え、
一時、盛況を博したベンチャーキャピタルの投資熱も冷え気味だ。
こうした問題に直面する日本のバイオ産業は、どうすれば活性していくのか。
今回は、レクメド・ベンチャーキャピタルの牛田雅之代表取締役社長に、
いま厳しい環境にあるバイオベンチャーの課題と今後の展望をうかがった。
interviewer:森本紀行(ベンチャー座アドバイザー、HCアセットマネジメント代表取締役社長)
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米国バイオベンチャーとのネットワーク

【森本】 レクメド・ベンチャーキャピタルのスタッフ構成についてお聞かせいただけますか。
【牛田】 まず本体のレクメドを創業した松本正は、協和発酵時代、海外のバイオベンチャーとのアライアンスの担当を長くやっていました。製薬会社は、次の時代の収益を担う薬のラインナップが非常に乏しくて、バイオベンチャーから技術、モノを導入していかないと、生き残っていけない時代になっています。松本は、そういう問題意識を昔から持っていて、1980年代半ばから米国を中心にバイオベンチャーを隅から隅まで回る活動をしていました。1998年に、松本が形成してきた米国のバイオベンチャーとのネットワークを生かした提携支援サービスを、協和発酵のためだけにとどまらないで、日本のすべての製薬会社に対して広く提供しようと独立して設立したのがレクメドです。このように、松本が海外のバイオベンチャーのネットワークを持ち、また、製薬会社のニーズ、あるいは、医薬候補品導入の際のリスクをよく分かっていることから、我々のファンドの目利き役は、松本が担当しています。
【森本】 レクメドでは、提携支援コンサルティングだけでなく、医薬品の開発事業も展開されていますね。
【牛田】 はい。そこでファンド事業との間に利益相反の状態が発生し得る可能性がありましたので、2号ファンドの組成を契機に、ベンチャーキャピタルの業務を切り出して、レクメド・ベンチャーキャピタルという子会社を設立させたわけです。ここでは、私がベンチャーキャピタル、銀行、証券といったファイナンスバックグラウンドを活かして、ファンドの運営管理の責任を担っています。ファンド事業展開は、松本と私の二人で車の両輪のような形でやってきたわけですが、これから、ファンドの数も増えていき、担当の社数も件数も増えてくることから、昨年、一人ベンチャーキャピタル志望の若い人材を採用しました。彼は、大学では獣医学科でしたが、卒業後にバイオベンチャーに数年間勤務した経験がある人間です。すでに数社に投資を行い着実に実績を積んでいます。

社長自身が退路を断っているかどうか

【森本】 案件の発掘はどのような方法を取っていますか。
【牛田】 一つは、松本のネットワークから持ち込まれるものです。これは、協和発酵時代のものや米国でのネットワークがあります。それから、ベンチャーキャピタル仲間から来る話があります。もう一つは、我々の直接のソースではありませんが、共同パートナーの医学生物学研究所が診断薬や試薬ビジネスをやっていますので、そのルートで研究機関や大学発の案件の話が来ます。こちらは、一般のベンチャーキャピタルが知る前の研究段階の情報が入ってきますから、貴重な情報ソースになっています。大きく分けるとこの3つが主なディールソースです。
【森本】 審査はどのようなプロセスで行われていますか。
【牛田】 多くの案件の中から興味深い案件を見出した際には、まず、松本の意見を聞きます。そこで、もっと詳細な検討が必要なものについて、私と担当者がその企業に出向いて、直接ファイナンスも含めた事業計画を聞いていきます。そこで、投資価値がありそうだと判断した案件を、今度はmblVCと合同の投資委員会の俎上に乗せることになります。投資委員会には、先方の会社の社長に来ていただいてプレゼンを行ってもらいます。そして、投資委員会の会議で検討して決定していきます。最終的な投資の決定は、その場で即決のときもあれば、いくつかの改善要望への対応を見てから決定する場合もあります。しかし、投資に至らないケースのほうが、やはり多いですね。確率としては、松本に相談する案件で5件に1件くらい。投資委員会に諮る案件で10件に1件といったところでしょう。最終的に投資に至る企業は、15件〜20件に1社程度の水準です。
【森本】 現在の、投資先は何社あるのですか。
【牛田】 1号と2号のファンドをあわせて30社くらいです。そのうち、海外が10社前後になります。
【森本】 案件をセレクトする際、審査に残っていくためのポイントは何でしょう。
【牛田】 それは、いろいろですが、ふるい落とす理由として一番多いのは、資本政策が現実的でないということですね。株価設定が高すぎるとか、将来にわたって実行できそうにない資金調達プランを策定している会社は非常に多いですね。それから、我々がとくに問題にするのは、社長自身が退路を断っているかどうかです。研究者出身の社長が、大学教員の立場を持ったままだったり、どこかに逃げ道を残している人は少なくありません。こういう社長は、対象から外しています。
【森本】 バイオベンチャーの社長は、みなさん技術者ではないのですか。
【牛田】 技術者、研究者が多いですが、たまに、製薬会社で営業をやっていた人もいます。
【森本】 バイオの場合、IPOまで時間がかかって、一般に調達金額も非常に高額な印象を持たれていますが。
【牛田】 確かに調達額は大きいですね。東証のIPOの基準で、創薬ベンチャーの上場には、医薬品の開発が患者さんで効くレベルにまで進んでいることとの条件があります。新薬の開発がその段階までいくには、最低30億円くらいの資金が必要です。動物実験を経てヒトでの安全性確認を対象にする臨床試験では、一人400万円〜500万円の費用がかかります。10人〜20人に及ぶ試験が必要ですから資金は常に大きくなります。さらに、フェーズUという実際の患者さんに処方して有効性のデータを取る段階では50人〜100人という単位の試験が行われます。これも一人500万円かかりますから大変です。薬を商品にするまでには最終的には100億円以上の費用が必要になります。

アーリーでの4億円は非常に大きな資金

【森本】 それだけの金額を調達するとなると、何十社ものベンチャーキャピタルに調達をかけなければなりませんね。
【牛田】 そうです。もう、日本ベンチャーキャピタル名鑑みたいな株主リストができます。入っていないベンチャーキャピタルを探したほうが早いくらいです。一応、リードを取る大手ベンチャーキャピタルが3億円〜5億円くらいを出資して、その他のベンチャーキャピタルがずらっと並んでいる状態ですね。少ないところでは1,000万円、1,500万円というレベルのベンチャーキャピタルもあります。
【森本】 そこではレクメド・ベンチャーキャピタルは技術レベルのリードをとる形になるのですか。
【牛田】 我々は心のリードと呼んでいますが。最初の立ち上げの一番苦しい段階で大きなシェアを取って、徐々にダイリューションしていきます。現在の我々の一番大きいポートフォリオでも4億円ですから。それも上場する段階になると、我々の持ち株比率は5%くらいになっているでしょうね。ただ、アーリーの段階での1億円は「死の谷」を越えるために非常に重要な資金になりますし、リスクも大きいものです。投資先の社長も、そのあとの段階での10億円よりも、立ち上げ当時の1億円のほうがはるかに嬉しかったと言っていただいています。そこが、我々の優位点でもあるのです。
【森本】 バイオベンチャーがそれだけ大きな資本を必要とする中にあって、一方で、冷え切った投資環境があるわけですね。海外の投資家の資金を呼び込むことは考えていらっしゃらないのですか。
【牛田】 日本のバイオ業界は非常にドメスティックにできていますね。海外の投資家に向けて情報を発信することは、まずありません。英語で海外投資家を意識したwebサイトを作っている会社もほとんどありません。さらに、これは日本の法制度とも関係するのですが、種類株がぜんぜん普及していないことも問題としてあります。米国の投資家の中には、日本の技術に興味を持つ人も結構いるはずだと思います。しかし、引き受ける株はコモンストックだというと、かならず驚かれます。


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