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VC vision
前編 後編
第34回 官民一体のベンチャー投資 後編 継続する投資を
新規事業投資株式会社は、ファンド運用と直接投資による独自のベンチャー投資と、
ベンチャーファンドへの出資という2種類のビジネスを柱にしている。
後編では、独自ファンドの運用スタイルについて話を聞きながら、
同社のベンチャー投資に対する基本的な考え方について話をうかがった。

interviewer:森本紀行(ベンチャー座アドバイザー、HCアセットマネジメント代表取締役社長)
投資先事例

継続していくベンチャー投資の仕組み

【森本】 2006年に設立された新規事業投資1号ファンドのコンセプトはどういうものですか。
【酒巻】 このファンドは、日本政策投資銀行として継続してベンチャー投資をしていくための仕組みとして考えているものです。
【森本】 ファンドの規模はどれくらいですか。
【酒巻】 コミットメント総額が40億円です。現在2年半経ったところで半分強の投資を終えたところです。10年満期のファンドですので、3年から4年で投資ステージを終えたいと考えています。
【森本】 これもスタートアップが対象ですか。
【酒巻】 いえ、こちらのファンドは、我々金融投資家の目線で投資ができる案件に投資をしていくものと位置づけています。私個人としては、アーリー、ミドル、レイターといった成長ステージからベンチャー企業をみるというよりも、イグジットからさかのぼってどのポジションにいる企業なのかで投資を考えるようにしています。
【森本】 金融的な見方ということですね。
【酒巻】 ええ。具体的には、投資してから3年から5年で何らかのイグジットができる案件に投資していく形を目指しています。そういう観点からすると、現実に検討する企業には、設立してから1年の企業もあるし、逆に5年、10年という歴史を持っている企業もあります。
【森本】 現在、御社の従業員は何名いるのですか。
【酒巻】 役員を除き従業員は、全部で15名程度で、投資部と総務部の二つに分かれた組織構成になっています。総務部の中にはリビングデッドの案件の処分、それから上場した案件を市場で売却するといった投資管理をする者もいますが、基本的に、投資部がすべての投資についての投資活動とモニタリングを行っています。
【森本】 投資部の担当者は何名いるのですか。
【酒巻】 8名います。
【森本】 投資部のメンバーは、日本政策投資銀行からの出向者が多いのですか。
【酒巻】 ええ。基本的にはほとんどが、日本政策投資銀行からの出向です。
【森本】 酒巻さんは、新規事業投資に来て何年になられますか。
【酒巻】 ちょうど1年半くらいです。ただ、ここに来る前は、日本政策投資銀行のロサンゼルス駐在事務所の所長を3年間していまして、また、その前の4年間は、新規事業部でベンチャーへの融資とベンチャーファンドへの出資を担当していましたから、ベンチャーに関わっていたということでは、5年くらいの経歴があります。

中長期的な視点でベンチャー投資を進める

【森本】 案件の発掘、投資決定のプロセスは、どう進めてられているのでしょうか。
【酒巻】 おそらく、他のベンチャーキャピタルの方々と変わらないと思います。私たち役員レベルの紹介もありますが、基本的には投資担当者がいろいろな案件を開拓、検討して、検討会を経て投資の機関決定を行います。その時の我々の目線ですが、その会社の事業内容、そのマーケットの成長性、タイミング、商品・サービスの差別化戦略、競争力といったものを見ていきます。あとは、経営者の事業を推進していく能力ですね。これらを総合的に見て投資決定の判断をしていきます。あえて、当社の独自性を挙げるとしたら、やはり日本政策投資銀行が関係するベンチャーキャピタルということで、中長期的な視点から、将来を見据えてベンチャー投資を進めているという点だと思います。また、日本政策投資銀行のネットワークは、中立的でパブリックなネットワークで、範囲も幅広い領域にわたっていますから、これも特徴的な武器になると思います。ですから、この中長期のビジョンとパブリックなネットワークの両面を生かして安定的な投資活動を展開することが我々のカラーだと思っています。また現在は、イグジットの面で厳しい投資環境にありますが、そういう時でも、当社の設立に際して賛同いただいた官民一体の趣旨を踏まえて一貫して投資活動を続けていくことも、独自性の一つといってもいいと思います。
【森本】 御社の株主の方々は、金融機関から商社、通信、エネルギー、製造業、家電メーカー、食品業界、流通業界と日本の産業界全体の著名な企業をカバーしていますが、これらの企業はどれくらいアクティブに御社の投資活動と関係しているのですか。
【酒巻】 株主の方々にどれだけ具体的に動いていただいているかというよりも、当社にとっては、大手企業が株主にいるということが非常に有効になっています。ベンチャー企業からぜひ投資してほしいという声をいただけるので、案件の開拓に関しては大きなパワーになっています。最近は、投資先が上場する際には、ファンドの後ろにどういう株主がいるのかのチェックも入りますから、そういう意味では、当社の信用になる強みだと考えています。あと、投資先とのマッチングに際しては、株主企業にも声をかけさせていただいていますから、その点でも株主たちの存在は大きな力になっています。
【森本】 案件の発掘作業は具体的にどういう展開で進められているのですか。
【酒巻】 いろいろなルート、情報ソースからの紹介ということですね。あとは、投資担当者が持つ情報網にかかった企業にこちらから訪問して発掘するケースがあります。長年のベンチャービジネスの関係者とお付き合いができてきますと、やはり、紹介案件の比率は高くなります。
【森本】 どれくらいの比率になりますか。
【酒巻】 正確な数字は押さえていませんが、かなり高いといっていいと思います。



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