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Front Interview
第1話 第2話
第3話 第4話
Vol.016 GCA株式会社 代表取締役 佐山展生第4話 心一点曇りなく
コラム(4) パーソナル・データ(4)
人が関わるM&A
 ユニゾン・キャピタルを辞める約半年前に、元KPMGコーポレートファイナンスの代表取締役で、当時一人で仕事をしていた公認会計士の渡辺章博氏(現・GCS代表取締役パートナー)たちと話をして2004年4月1日、GCAを立ち上げました。当初はとりあえず作っただけだったのですが、独立系にビジネスチャンスがあると思ったのは、ダイエーが産業再生機構に行く前のプロセスを見たときでした。当時はダイエー再建のアドバイザーは大和証券SMBC、みずほ証券、UFJつばさ証券(現三菱UFJ証券)の3社でした。しかし3社ともダイエーのメインバンクの系列証券会社でした。しかし、債務者としてのダイエーのアドバイザーとしてメイン銀行に対して債権放棄の要請はできないでしょう。メインバンクの第1優先は債務者の救済よりも債権回収です。完全な利益相反です。こうした構図は絶対におかしい、将来必ず独立系のM&Aアドバイザリー会社が必要になるはずだと確信しました。
  M&Aのアドバイザリーという仕事の良いところは自分の仕事が形として残るところです。我々が関与した阪急ホールディングスと阪神電気鉄道の経営統合、ワールドのMBOなどは実際に形として残っています。M&Aは成功するかしないかで、その結果の社会へ与える影響はまるで違ってきます。大変ですが、とてもやりがいのある仕事だと思います。
  M&Aはまず最終的な形をイメージするところから始めます。M&Aが成功する確率は最初は数パーセントもありません。阪急阪神の経営統合やワールドのMBOも、最初は可能性1%未満だと考えていました。M&Aは勝負です。交渉には流れというものがあり、その流れを掴むかどうか、流れをコントロールできるかが成否を決します。野球などのスポーツの世界にも似ていて、一瞬一瞬が勝負の世界で、形勢が突然ひっくり返ることもあります。最後の最後まで、契約書を調印するまでわかりません。

For client’s best interest
 我々が若い人たちに常々話しているのは「For client’s best interest」という経営理念です。この言葉はミーティングのたびごとに、繰り返し言っています。世の中にはたくさんのM&Aアドバイザーがいます。しかしそのほとんどはお客様のことを第一に考えてはいません。手がける会社で働いている従業員のことすら考えていない人たちもいます。ほとんどのM&Aアドバイザーは、「いくら儲けなければいけない」と追い詰められているのが現状だからです。
  しかし、おそらく外資系投資銀行や日本の証券会社のM&A部門と、GCA社内の雰囲気はまったく違っていると思います。GCAではいくら稼いだかを評価の対象にしてはいません。会社としては儲けなければいけませんが、利益を最優先にしたりノルマを作ったりすると、大きな案件ばかりを優先して小さな案件に手を出さなくなる。大きな案件だけを無理してまとめようとしていると、お客様の利益とは反してしまいます。お客様の立場に立って、小さな案件でもきちんとまとめていくことを優先しています。
  いま日本のM&A業界では盛んに引き抜き合戦が繰り広げられています。多いところでは1年でスタッフの半分以上が変わってしまっているところもあります。しかし、GCAは創業以来、退職したのはほんの数名だけです。それはみんなが楽しく、自らが成長しているという実感の中で仕事をしているからだと思います。M&Aの仕事は職人の仕事に似ています。若い人が見習いで入っても、良い棟梁につけば短期間で仕事を覚えられますし、技術も自分自身も磨くことができる。基本的な精神がしっかりしている人なら、キャリアはなくても短い期間で一人前になれます。


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