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VC vision
前編 後編
第15回 ベンチャーケミストリー  前編 コンセプチュアル・ファンド GMOベンチャーパートナーズ株式会社 取締役 村松竜
インターネットのインフラ・メディア・金融ビジネスを軸に事業を展開する
GMOインターネットグループは、日本のITビジネス界のリーダーとして、
社会的認知が高まってきている。
そのGMOインターネットグループは2005年9月、
インターネットサービス系のベンチャー支援を目的に
GMO VenturePartners株式会社を設立。
その従来にない発想でのユニークなファンド展開は 投資家からも高い注目を集めている。
今回は同社の村松竜取締役に、
GMOVenturePartners株式会社が目指す新しいベンチャー支援組織観をうかがった。

interviewer:森本紀行(ベンチャー座アドバイザー、HCアセットマネジメント代表取締役社長)
パートナーズ GMOベンチャーパートナーズ 投資先実績一覧
上場後のイメージをもって投資、事業のお手伝いをする

【森本】 村松さんが、6年間の事業経営者を経て、ふたたびベンチャーキャピタルの世界に戻ってきて、ジャフコ時代と比べて最も変わった点は何ですか。
【村松】 大きく分けて3点あります。一つは、未上場の企業経営者と上場後をイメージしながら話をするようになったことです。新卒でベンチャーキャピタルに入社した際には、上場後の状況を知らずに投資活動をしていましたが、本来は具体的な上場後のイメージをもって投資、事業支援をするべきだと思うようになったということですね。
【森本】 上場後の事業展開の経験がないと、上場するメリットが何かということを、実感をもって伝えることができませんからね。
【村松】 はい。上場企業を経営する緊張感やプレッシャー、そして本当のメリット。それが皮膚感覚でわかるようになったことが、自分の中で最も大きく変わった点です。二つめは、事業者の苦労を体験的に知っているということですね。私も事業経営者として、いろいろ失敗と成功を経験してきました。難局に直面したときにどう対応すべきかなどを、体験談をもってアドバイスできるように なっている点も、以前の投資担当者時代にはないアドバンテージだと思います。三つめは、オペレーションのマネジメントを格段に重視していることです。マーケット、ポジショニング、経営陣のどれも問題ないという場合でも、多くのベンチャーは成功していません。成功・不成功の差は何かというと、オペレーションのエクスキューションができるかどうかの違いだと思います。事業をやるのにどのような人員が必要なのかという場合に、採用計画書があるからいいというわけではなくて、優秀な人を採用したり育てたり、何が何でも計画を実行する、ということが現実にできなければなりません。この点を理解し、重視し、お手伝いができることは、以前にはなかった最大の強みになっているといえます。
【森本】 御社のファンドには、どのような特徴があるのですか。
【村松】 現在運用しているファンドは、2つあります。この2つはかなり性質が異なっています。2005年9月に組成した一つめのファンドは、「GMOVenturePartners投資事業有限責任組合」という名称で、GMOインターネットグループでビジネス上のお手伝いをしていこうという企業に対してマイノリティ投資を行い、GMOインターネットグループとのオープンな関係の形成が目的になっています。先ほど申しました、上場前だけではなく上場後にもその企業との関わりを継続するものとして組成しています。
【森本】 上場後にまで視野を持つということは、レイトステージでの投資が多くなるわけですね。
【村松】 そうです。レイトステージの企業が中心になります。第一号ファンドの投資先企業は、レイトステージが8割で、アーリーステージの企業が2割の構成になっています。約13億円のファンドで、約半分がGMOインターネット、残りの半分が外部の投資家による出資になっています。

新しいコンセプトに特化したファンドが必要

【森本】 二つめのファンドにはどのような特徴があるのでしょうか。
【村松】 6年ぶりにふたたび投資する立場になったわけですが、Web2.0化という新しい環境変化の出現で、インターネット産業の様相が大きく変わっていることに気がつきました。Webが誕生して10年を経て、Web言語はHTMLからXMLへと10年スパンで移っていきつつあります。そういう変化の只中で、さまざまなベンチャーが誕生していて非常に活況を呈している状況です。そこで、もっと新しいコンセプトに特化したファンドが必要だと判断しました。「ブログビジネスファンド投資事業有限責任組合」がその二つ目のファンドです。これは、2005年頃から2006年にかけて「Web2.0」と総称されつつあった一連のイノベーションを「顧客創造のエンジン」に転換し、収益スケーラブルな事業構造と成長ポテンシャルを持つ会社を支援していく趣旨のファンドです。ブログ、SNSなどのソーシャルメディアや検索連動広告などの技術を中心とした、いわゆるWeb2.0という言葉で総称される技術やWebサービスの進化方向に着目して投資展開しています。2005年の12月に立ち上げています。
【森本】 もう少し詳しく特徴をうかがえますか。
【村松】 このファンドは、2、3億円の規模で1,000万円くらいずつ出資できればいい、という考えでスタートさせました。しかし2005年末の4カ月の間で高い反響をいただきまして、多くの出資希望者が集まってきてくださり最終的に10億円のファンドになっています。一つめのファンドとは逆に、投資先企業は7〜8割がミドルからアーリーで占められています。表面的なWeb2.0ブームは終わり、これから本当のイノベーションを通じて大きな収益をあげる企業が登場してきます、そこに出資してその変化をお手伝いしていこうという主旨のファンドです。今後はこうした企業との交流を深めていくことで、GMOインターネットグループのオープンなネットワークも拡大していくでしょう。
【森本】 Web2.0以降のインターネット分野はどのように変わって、また、市場的にはどれくらい拡大するものと考えになっていますか。
【村松】 先ほどもお話したように、Web言語がHTMLからXMLに大きくシフトしているわけですが、この流れは止まることなく進行していくものです。しかしながら重要なのは、そもそも「Web2.0企業」「Web2.0的な分野」などは存在したこともないし、これからも存在しない、ということです。ただし、「Web2.0的なイノベーションのトレンド」は、実態としての技術基盤の変化が確固たるものであるがゆえに、確実に進行しています。ブログはその中の一アプリケーションで、ほかにもSNSが出てきたり、YouTubeが出てきたりと、いろいろなWebサービス、ソーシャルメディアが出てきているわけです。これからはさらにこうした多様なアプリケーションがどんどん出てくるだろうと考えていまして、さらにこうした変化の上に乗ってビジネスモデルの形態も、従来の集中モデルから分散型へと展開されていくことも確実なことです。大手各社は集中モデルだけでは次の成長はないといわれて、分散モデルに舵を切り始めていますが、簡単にはいかないわけですね。いまはGoogleの一人勝ち状態ですが、これからは分散モデルに適応したところが次の覇者になるだろうといわれています。ですから、これからの市場規模については具体的には何ともいえませんが、IT業界はすべて、今後この流れに沿って動いていくということです。そこには大きなイノベーションの機会とビジネスチャンスがあるのです。

後編 「ケミカル・ネットワーク」(5月15日発行)へ続く。


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