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VC vision
前編 後編
第30回 地域と育つベンチャー 後編 経営者の意志とデューデリジェンス
池銀キャピタル株式会社は、
2003年にベンチャーキャピタル業務を本格化させてからの5年間で
100社を超える企業に投資してきたという。
短期間のうちに数多くのベンチャー企業に投資ができた理由は、
IPOにこだわらず、焦点を技術評価に絞った
アーリーステージへの投資に力を入れてきたためだ。
レイトステージに集中する傾向にあるベンチャーキャピタル業界の中にあって、
なぜアーリーステージに集中した投資を行っているのか。
後編は、池銀キャピタルのベンチャー投資に対する基本姿勢についてうかがった。

interviewer:森本紀行(ベンチャー座アドバイザー、HCアセットマネジメント代表取締役社長)

経営者の「やろう」という強い意志

【森本】 近年のベンチャーキャピタル業界の流れは、アーリーステージ、シードへの投資はかなり縮小して、レイトステージに向かっています。そして、資金回収の動きが活発です。
【神保】 しかし、こうした状況下でも、我々として必要だと思える投資を継続してやっていきたいと思っています。また、代表的なのは中国での投資になるのでしょうが、海外の投資で、円ではなくて現地通貨で投資する動きも多くなっていると思います。特に専業大手ではそういう動きを活発化させています。利益追求であれば、そういう投資が有利だろうとも思いますが、我々はまだノウハウも未熟ですから、この流れには乗らないで、もともとの当社の設立の趣旨を遵守して取り組んでいく姿勢でいます。今後環境が変わればどうなるかはもちろん分かりませんが、今はまだ当社の事業の範囲で活動していくということを守っています。大きな利益を上げるチャンスを逃すことになるかもしれませんが、銀行グループとして容認してもらえる範囲であれば、今までどおりの展開を進めていきたいと考えています。
【森本】 今後の動きについてと、新しいファンドについてはどうお考えですか。
【神保】 3号目の「夢仕込大学ファンド」を新たにつくる計画を進めています。これは大阪府立大学と大阪市立大学に協力を仰いで共同ファンドの形にする計画で進めています。
【森本】 投資先と一緒に成長していきたいというお話がありましたが、案件の審査にあたってはその点も精査されるわけですね。
【神保】 経営者が「やろう」という強い意志を持って経営に取り組んでいることを見極めてやっていくということですね。アメリカなどが代表的なのでしょうが、マニュアル化された考え方があって、いろいろなスコアリングでチェックしていくやり方がありますね。例えば、経営者が専業ではなくて、どこかの会社の役員をやっていたらダメだという考え方があります。我々も、経営を兼務されている人への投資には躊躇しますが、面談の中でその人の意思を確認することは欠かしません。兼務しているなら、いつ、専業としてやるつもりなのかを相対でお話をし、確認していきます。書類上のチェックだけで終わることはありません。面談抜きに、すべてのデューデリを終わらせないことを原則にしています。ただ、このやり方も必ずしも確実ではないので、手順は常に変化をしていますが。
【森本】 経営者を判断する際、特に重視するポイントはありますか。
【神保】 基本的に、上場したときにIRのプレゼンが下手な社長は難しいですね。自分がやろうとしていることを整理して、メッセージとして他人に伝えられない人ですね。これは口下手だからでダメだということではなくて、頭の中で自分のビジネスモデルができていないからできないのではないでしょうか。したがって、経営者の皆さんには、プレゼンの練習をするのではなくて、自分のビジネスモデルのブラシュアップをしてほしい、という要求をしています。そういうことを通じて、従業員の方とも一体感が生まれますし、我々も株主として、一緒にやりたいと考える経営者に安心して投資していくことができるのではないかと思っています。また、我々としては、こういう会社が好みです、という趣旨を対外的に公表して発信するという意味で、社長インタビューシリーズを池銀キャピタルのHPで公開しています。2カ月に1回の割合で記事を載せいています。

ファインディング先行で動いている

【森本】 投資対象の分野では、特徴はありますか。
【神保】 産業や業種別ポートフォリオの考え方は、持っていますが、実際に、ポートフォリオを思い通りに構築できるのかとなると、そこはけっこう難しいのですね。ファインディング先行ということで動いています。ファンドの投資目的に沿ったものであれば、ポートフォリオ投資を追求しても、私どものような小規模ファンドではあまり意味がないような気がするのですね。アメリカで何%、日本で何%、あるいはバイオや機械、商業に各何%というポートフォリオを考えるのは、かなり大きな資産を持っている場合に有効なのであって、我々クラスがそんなことをやっていたら、一つ一つのセクターの投資金額が大したことのないものになってしまいます。そうなると、いいディールがきたときにも、ポーションがこれしかないからできないということにもなりかねません
【森本】 「夢仕込ファンド」での投資対象は、関西圏に限られているのですか。
【神保】 今は、結果として関西がほとんどですが、コンソーシアム助成金先の企業が共同研究を行っている大学、研究機関は全国化しています。また、そのビジネス展開によっては、関西の企業だけれども、研究相手が北海道、東京であるために、そちらに拠点を移して活動するという企業も出てきます。実際、投資後に本社を東京に移転した企業もあります。ただ、助成金に限ると、その対象は、近畿2府3県に事業拠点があることが条件になっていますから、自然、大阪の企業が多くなります。
【森本】 大阪の強みとは何でしょう。
【神保】 そうですねえ。発掘が十分されていない点じゃないでしょうか。東京だと事業会社が多い分、投資会社も多いので、市場における誤差が非常に小さいのですが、大阪では、開拓の余地が多く残されているといえると思います。「大阪」といった場合、京阪神をひっくるめた形になりますが、研究拠点としては一つの大きな核をなしています。研究拠点の中でのいい発想の発生確率は、東京と大差はないと思います。同じ発生確率でありながらも、これまで大阪での事業化のアプローチは低かったと思います。IPOの企業数では、大阪は東京の10分の1です。企業総数の差はそこまで開いてはいません。まだまだ大阪には見えていない、知られていないビジネスや企業があると思います。
【森本】 将来に向けては、どのような展望をお持ちですか。
【神保】 まず、産業全体でサービス化が進んでいきますから、その部分の新しい事業、新しい産業の掘り起こしですね。これまでの製造業においての技術・ノウハウについては強みとして持っていますから、この二つのバランスのなかで、一定の役割が果たせて、ポートフォリオも組んでいける収益構造のベンチャーキャピタルにしていきたいと思っています。それができるかどうかは、まだわかりませんが、投資先が100社を超えて、しかも、それらは必ずしもIPOを第一義的にみてきたわけではない中で、前期末までに上場した企業が10社あります。全体で1割ですが、IPOを狙った投資先でいえばそれ以上の打率を残していますから、企業をみる目を確立しつつあると思っています。この延長線でみれば、もっとうまくいくのではないかという期待を持っています。見方によっては幻想なのかも知れませんが。


インタビューを終えて

私は、新しいビジネスモデルを掘り起こすベンチャー投資と、銀行本体の融資業務をつなげた地銀系のベンチャーキャピタルのスタイルは、非常に理にかなった投資法だと思う。元来、間接金融を主導にしてきた日本の金融システムに、直接金融をビルトインしようとしたとき、間接金融との連動を戦略的に構築しようとするコンセプトは、決しておかしなものではない。むしろ、直接金融のダイナミズムを組み入れるには、間接金融のメリットを生かしたシステムにしたほうが、日本の旧来からの金融システムの土壌を有効活用できるメリット面も大きいのだ。池銀キャピタルは、地銀系ベンチャーキャピタルとしては、後発であり、規模も決して大きくはないが、地銀の持つ特性を十分に生かそうという姿勢が明確にみて取れる。また、大阪という今後の経済成長が期待される地域を地場にしているだけに、池銀キャピタルの持つベンチャーキャピタルとしてのポテンシャルは、非常に大きいのではないだろうか。地銀系のベンチャーキャピタルの動向を、今後とも、注目していくべきだと思う。(森本紀行)

次号第31話(2008年9月3日発行)は、グローブスパン・キャピタル・パートナーズのアンディ・P・ゴールドファーブさんが登場いたします。


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