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VC vision
前編 後編
第32回 大和SMBCキャピタル株式会社 前編 ネットワークをいかした成長支援
大和SMBCキャピタルは、2005年に大和証券系のエヌ・アイ・エフ・ベンチャーズと
三井住友銀行系のSMBCキャピタルが合併して誕生したベンチャーキャピタルだ。
本年10月1日より、旧社名・エヌ・アイ・エフSMBCベンチャーズを
大和SMBCキャピタルへと変更している。
大手証券会社とメガバンクを親会社に持ち、
投資部門に100名近いキャピタリストを有する同社は、
業界最大手のベンチャーキャピタルの一つとして、
どのようなベンチャー投資を目指しているのだろうか。
執行役員 投資第一部長の横山英世氏に、社名も一新し、
新しいスタートを切った大和SMBCキャピタルの投資活動の今とこれからをうかがった。。

interviewer:森本紀行(ベンチャー座アドバイザー、HCアセットマネジメント代表取締役社長)
投資先事例

投資後3年の案件は事業開発部に引き継がせる

【森本】 メンバーは、親会社からの出向が多いのですか。
【横山】 新卒、親会社の出身者、スペシャリストの中途採用者などで構成されています。専門分野での経験者の採用も多くなっています。投資に携わっている職員の中で、大和証券グループの出身者はほとんどいませんし、三井住友銀行の出身者は合併に伴って転籍しているので、出向者はほんの数名です。
【森本】 このメンバーが、各分野別に分かれて活動しているのですね。
【横山】 そうです。いま、投資部門は、第1部から7部まであります。それに加えて、中部支社、関西支社、九州支社の3支社があります。第1部はライフサイエンスを中心に活動していましたが、近年バイオ分野のベンチャーが低迷しているので、第1部でもそれに限らない投資を展開しています。ですから、最近はあまり部ごとの業種の色分けはなくなってきています。ただ、各メンバーのバックグラウンドは、分野別に分かれた構成にはなっています。第1部でしたら、大学院でタンパク質の研究をしていたとか、化学合成をしていたとか、元薬剤師であったとか、そのようなメンバーが揃っています。
【森本】 ハンズオンを担う事業開発部はどのような支援活動をしているのですか。
【横山】 まず、投資後3年くらいたった投資先に対して、見直し作業をしています。そこで、そのベンチャー企業の成長性を高めるための支援やビジネスマッチングを検討、実施をしていきます。
【森本】 事業開発部の人たちは、どういうメンバーなのですか。
【横山】 投資部にいたベテランが多いです。交渉ごとが多くなりますから、やはり経験が必要になります。40代の職員が中心です。ここでは、それぞれ担当企業が決まっていますので、事業開発部が単独で支援活動を展開しますが、投資先によっては、投資部の担当と連携して動くこともあります。
【森本】 逆に投資の現場から事業開発部に相談にくる場合もありますか。
【横山】 そうですね。投資部で投資先をずっと見ていると、投資先が増えていきますから、新しい投資先を探してくる時間がつくりづらくなってくるのです。そこで、投資後3年くらいたった案件を事業開発部に引き継がせる体制にしたのです。ひとつの投資先に投資部と事業開発部の両方の目が届くメリットもあると思います。
【森本】 投資部のキャピタリストは一人で何社くらいを担当しているのですか。
【横山】 10〜15社ですね。かつては、一人で40、50社の担当をしていた人もいましたが、それでは、担当企業のモニタリングに追われて肝心の投資活動の時間が取れなくなるので、事業開発部へ引き継ぐ体制にしたわけですね。

親会社のネットワークを使った企業の成長支援

【森本】 事業開発部によるハンズオンの特徴は何ですか。
【横山】 基本的に大和証券グループのネットワークを使えることですね。大和証券が主幹事の上場会社もたくさんありますし、また、三井住友銀行の取引先も数多くありますから、このルートを使った我々の投資で株式公開するまで成長した企業は800社近くになります。この親会社のネットワークを使った企業の成長支援は、きわめて有効に働いてきたと思います。それに、現在の投資先も1,000社以上ありますが、これらの企業のニーズにあったマッチングをしていく機能も強力だと思います。多様な業種に対応できますからね。
【森本】 とくにどの分野が強いということではなく、すべての分野に対応できるということですか。
【横山】 基本的に、何かに偏っているということはないですね。
【森本】 ファンドの性格も、バランス型になるのですね。
【横山】 そうです。現在、投資を行っているファンドは国内だけでなく、海外への投資も行っています。海外投資の比率は、全体の10%になります。
【森本】 逆に、そういうバランス型の投資スタイルであるための悩みはありますか。
【横山】 そうですね。何かに特化しているわけではないということは、そこには情報が集中して集まることがないということですから、そういう意味では、知識、ノウハウ、密度の高い情報が集約されていく機能は、弱いといえるかもしれません。いろいろな分野に投資していますから、その部署にいけば、その分野の情報が必ずあるという形はできづらいですね。特化型のベンチャーキャピタルに比べれば、その能力は弱いかもしれません。しかし、日本のように、ベンチャーキャピタルが上場していると、間口を広くしたやり方になるのは必然だと思います。
【森本】 一つ一つ改善しながら、大きな組織体制を構築していくというあり方ですね。
【横山】 そうですね。おっしゃるとおりだと思います。
【森本】 海外投資では、どの地域が主になっていますか。
【横山】 アジアです。中国が中心ですね。いま香港に現地法人があって、上海にも駐在員事務所があります。10月には北京とホーチミンにも、拠点をつくる予定です。もともとは、台湾に現地銀行との合弁会社のベンチャーキャピタルがあって、台湾経由で大陸への投資をしていましたが、現在は直接投資する体制に移行しています。


後編 「日本型ベンチャーキャピタルを目指して」(10月15日発行)へ続く。


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