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Front Interview
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Vol.003 グロービス経営大学院 学長 兼グロービス・キャピタル・パートナーズ 代表パートナー  堀義人第1話 起業へのプロローグ
コラム(1) パーソナル・データ(1)
3つの目標を自分に課す
 それから、期日が迫っていることもあってあわただしく留学の準備にかかりました。ところが、ボストンに向けて飛び立った飛行機の中で、ふと我に返って考え込んでしまったのです。「僕はそもそも何をするために留学するのだろうか」と。じつは「留学する」という目標はあったのですが、何のために留学するのか、何を学ぼうとしているのかは、まったく考えていなかったことに気が付いたのです。お恥ずかしい話ですが、留学することそのものが目標になっていたのですね。それじゃあ5月病になる新入社員を笑えません。
  ともかく行きの飛行機の中で、必死に考えました。それで3つの目標を自分に課そうと結論づけたんです。「経営学を体系的に学ぼう」「様々な人とグローバルな人的ネットワークを作ろう」「多くの地域を見て回ろう」。
  ビジネススクールというものは日本の大学とはまったく違っていました。まずびっくりさせられたのは、授業開始の50分も前なのに、ほとんどの席が学生で埋まっていることでした。学生たちが先生の目に付きやすい場所の「席取り合戦」をしているのです。授業中も発言を求めてすぐに40人から50人の手が挙がるわけです。学校側もこうした競争を奨励していました。競争が切磋琢磨を促し、精神的にも優秀な人材を育てるという市場主義的な考え方がそこにはあるわけです。

戦略を立案するに至ったプロセスの重視
 次に驚かされたのがケースメソッドでした。HBSの授業というのは、ケースメソッドと呼ばれる教材を使って行います。これは実際にある企業の行動事例をまとめたものです。自らを経営者の立場に置き、分析し戦略を立案するもので、まさに経営者として考える力を養う授業を行うわけです。教官は経営環境をどう分析するか、どのように意志決定し行動計画を立てるか、というシンプルな質問しかしません。それに対して学生はケースを自分なりに分析し、自分ならどういう意志決定をするかをテーマに意見を発表、ディスカッションをしていくわけです。
  この方法に唯一絶対の正解はありません。なぜそういう戦略を立案するに至ったかというプロセスが重視されるわけです。また学生同士のディスカッションですから、自分の意見を周りに納得させなければいけない。コミュニケーション能力も鍛えられるというわけです。こういう授業ですから、評価というのは授業での発言数やその内容が重視されることになります。
  最初はこうした授業に戸惑い、結局自分が何を学んだのか、何を身につけたのかが皆目わからなかったのです。日本でのいわゆるレクチャー方式の授業しか経験がありませんでしたから。HBSに来ている他の日本人もずいぶん苦労していたようでした。HBSでは、学生の5%程度が1年から2年に進級できず放校処分になりますが、日本人学生の場合は平均25パーセントが放校処分になっているという数字もありました。会社から派遣されて留学しているわけですから、そんなみっともないことはできません。そのこともずいぶんとプレッシャーになりました。
(5月10日更新 第2話「起業精神を育て上げる」へつづく)



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