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Vol.003 グロービス経営大学院 学長 兼グロービス・キャピタル・パートナーズ 代表パートナー  堀義人第2話 起業精神を育て上げる
コラム(2) パーソナル・データ(2)
米国のインテリはベンチャーを目指す
 ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)の授業はハードでした。ケースメソッドは毎週大量にこなさなければなりません。そのための予習で徹夜することもしょっちゅうでした。でも金曜日の夜だけは予習を休める唯一の休息時間。気のあった仲間4、5人と、チャールズ川の向こう岸にあるハーバードスクエアでビール片手に語り合ったものです。
  HBSには世界中から優秀な人材が集まっていました。出身国の期待を背負ってきているんだ、という自負を持つ人も多かった。そのせいか「卒業後はアメリカでプロフェッショナルを目指し、将来は自分の国に帰って国の経済復興に尽くしたい」などと将来のビジョンを語る人も多かったです。
  しかし米国の学生達と飲んだときはちょっと違う反応が返ってきました。彼らがよく言っていたのは「将来はベンチャーを創業する」というものだったのです。当時の僕のベンチャーに対するイメージというのは、叩き上げの現場人間が創業するものでした。それなのにアメリカではインテリのエリートが「ベンチャーを興す」というわけです。起業とかベンチャーを意識したのはこの時が最初でした。

米国のダイナミズムの源泉はベンチャー精神
 米国のエリート達がベンチャー創業を目指していることに驚いた僕は、いったいベンチャーとは何なのか、どんな魅力があるのか、そのことを是非とも知りたいと思うようになりました。そこでHBSの2年に進級すると「起業経営論(アントレプリナンス・マネジメント)」「起業財務論(アントレプリナンス・ファイナンス)」など起業と名の付くすべてのコースを選択しました。
  こうした授業でいくつかのケース分析を繰り返すうちに、ベンチャーとは何なのか、どのようにすれば起業でき、会社を大きくしていけるのかを理解できるようになりました。それと同時に米国という国のダイナミズムの源泉は、ベンチャー起業家や起業家精神抜きには語れないと感じるようになったのです。
  ベンチャーとは優秀な人材が自らの能力を最大限に発揮し、様々なイノベーションを起こし、新たな市場価値を生み出すものです。そこにある競争の原理はクリエイティビティ、スピード、そしてデファクト・スタンダードなんです。HBSのベンチャー関連の授業を受けているうちに「もしかしたら僕は成功できるかも知れない」「僕は起業家に向いている」とまで思えるようになりました。

日本にHBSを作りたい
 ところが当時は実際に起業しようとまでは考えませんでした。そこで「僕はなぜ起業しようとしないのか」「なぜ起業できないのか」、そんな自分自身を分析してみたいと思えるようになったんです。そのためには、自分とベンチャーを目指す人を比較することが一番。そこでHBSの「起業クラブ」に所属しました。このクラブは起業に関する研究だけでなく、ビル・ゲイツをはじめそうそうたる起業家がしょっちゅう講演にやってくる、HBSの中でも大変活発なクラブでした。
  このクラブで、ベンチャー成功者の話を聞いたり、クラブのメンバーとつきあううちに、僕と彼らの違いは何なのか、おぼろげに見えてきたのです。それは「彼らは自分の可能性を信じているが、僕はいまだにそれを信じる事ができていない」ということだったのです。
  MBAを取得するための2年間というものは、僕にとって自身のキャリアを見つめ直す良い機会になりました。今後、社会人としてどのように歩んでいくべきなのか考えることができました。
  そこで考えたことの一つが、日本でHBSのようなビジネススクールができないだろうかということでした。HBSは優秀な人材を多数輩出している素晴らしい学校です。HBSのケースメソッドで経営学を体系的に学ぶことができれば、日本でも多数の優秀な人材を輩出できるかもしれない。もちろん、当時はまだ具体的な計画があるというより、淡い希望という程度でしたが。



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